経営者保証

【経営者保証に関するガイドライン】法人と経営者との関係の明確な区分・分離とは

本記事の内容

・経営者保証に関するガイドラインの概要

・法人と経営者との関係の明確な区分・分離とは

・法人と経営者との関係の明確な区分・分離の事例解説

 

経営者保証に関するガイドラインにおいて、個人保証を提供せずに資金調達するための要件は、以下の3点です。

①法人と経営者との関係の明確な区分・分離

②財務基盤の強化

③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保

 

本記事では、①について詳しく解説します。

 

本題に入る前に、「経営者保証に関するガイドラインって何?」という方のために、経営者保証のガイドラインの概要を解説します。

ご存じの方は、読み飛ばしていただいてもかまいません。

 

経営者保証に関するガイドラインの概要

経営者保証に関するガイドラインは、平成26年2月1日から適用となった、中小企業団体及び金融機関団体共通の規則です。

経営者保証における合理的な保証契約の在り方等を示すものであり、法的拘束力はないものの、主たる債務者(借入をした企業等)、保証人(経営者や第三者)、対象債権者(金融機関等)によって自発的に尊重され順守されることが期待されています。

なお、経営者保証とは何かは、下記の記事で詳しく紹介しています。

ご参照
【5分で分かる】経営者保証とは何かを簡単に解説します

社長の息子(後継者)「いよいよ社長を引き継ぐ時がきたな。入社した時から覚悟はしていたけど、不安も大きいな。うちの会社は銀行からの借り入れがあったよな、たしか親父が保証人になっているはずだ。いわゆる経営 ...

続きを見る

 

経営者保証に関するガイドラインの要点は以下の3つになります。

 

(1)法人と経営者との関係が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証をもとめないこと

(2)多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて約100~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることができるなどを検討する

(3)保証債務の履行時返済しきれない債務残額は原則として免除するこ

 

本記事では、(1)に関して、経営者の個人保証を求めない要件の1つである「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」について解説します。

 

法人と経営者との関係の明確な区分・分離とは

 

なぜ、法人と経営者との関係が明確に分離される必要があるのか

結論は経営への規律付けのためです。

 

中小企業は代表者や役員が主要な株主となり、企業の意思決定のほとんどを握っている傾向があります。会社と経営者の間でお金の貸し借りをすることも簡単であり、珍しくありません。

また、企業の事務所や敷地といった経営上必要な資産が、代表者や役員の個人名義となっているケースも多いでしょう。

そして、主要株主である代表者は、役員報酬や配当金の額も法律の範囲内で自由に決めることができます。

 

中小企業は、代表者や役員が経営に関する意思決定を担っていると言えます。

そのため、経営者の裁量が大きく、悪い言い方をすれば、会社を私物化できてしまいます。

会社のお金を経営者に個人的に貸し付けたり、業務実態のない役員に多額の報酬を支払う等の公私混同とも言える行為ができてしまいます。

 

会社と経営者の間の資金のやりとり(役員報酬・賞与、配当、経営者と会社間の資金貸借等)は、社会通念上適切な範囲を越えなければ問題にはならないでしょう。

金融機関としては、会社にお金を貸す場合に、貸したお金が経営者や役員に渡ってしまうことを恐れます。お金が事業に使われなければ、会社の利益にもつながらず、返済にも影響が出るかもしれません。

法人と経営者が明確に分離されていない企業にお金を貸す場合には、経営者保証を求めることで経営への規律付けをさせるといった意味もあります。

 

貸借対照表や損益計算書で解説

法人と経営者との関係の明確な区分・分離について、貸借対照表や損益計算書で詳しく説明します。

 

貸借対照表

法人と経営者との関係の明確な区分・分離について、特にポイントとなるのは上記の灰色で示した科目です。

 

(短期貸付金・長期貸付金)

事業用必要がないにもかかわらず、会社から経営者等にお金を貸してるケースです。

金融機関が会社に融資をして、そのお金が経営者等に渡っているのなら、経営者保証を求めることは当然のことです。

実質的に、その経営者が金融機関から融資を受けていると同じだからです。

 

(短期借入金・長期借入金)

上記とは逆で、経営者等から会社がお金を借りているケースです。

経営者が個人資金を投入する必要があるほど、会社の資金繰りは厳しいと判断されかねません。

経営者が会社に資金援助をすることで経営が成り立っているのであれば、法人と経営者との関係は区分・分離されているとは言えません。

 

(建物・構築物・土地)

事業用に必要な事務所等の建物・構築物や土地を経営者が個人所有しているケースです。

事業用に必要であれば、経営者の個人所有とはせずに法人所有とすることが望ましいと考えられます。

なぜなら、経営者がそれらの資産を処分してしまったら事業活動に支障が生じるからです。

 

なお、法人所有が困難な場合は法人が適切な賃料を経営者に支払うことで、実質的に法人と個人が分離しているものと考えられます。

また、金融機関に担保提供しており、自由な処分が困難であれば、これも法人と個人が分離されていると考えられます。

 

損益計算書

法人と経営者との関係の明確な区分・分離について、特にポイントとなるのは上記の灰色で示した科目です。

 

(売上高)

経営者が個人でも事業をしており、会社との間で取引関係があるケースです。

その際に、公平な取引が行われているか、会社の業務上必要な取引であるかが問題となります。

 

(販売費および一般管理費)

個人として消費した費用(飲食代や旅費交通費等)について、法人の経費処理としていないか。つまり公私混同していないかが問われます。

 

(支払利息・受取利息)

これは、貸借対照表で説明した貸付金や借入金の利息です。事業用の必要が認められない資金の貸借が問題となります。

 

以上が貸借対照表や損益計算書のポイントです。法人と経営者との関係の明確な区分・分離を図るためには財務内容の見直し・改善が重要となります。

 

法人と経営者との関係の明確な区分・分離の事例解説

 

最後に、「経営者保証に関するガイドライン」の活用に係る参考事例集から、法人と経営者との関係の明確な区分・分離がポイントとなった事例について解説します。なお、本事例は金融庁が公表しており、事例はその転載となります。

※解説はあくまで私の見解であり、今後の全てのケースに当てはまるものではありません。

 

法人と経営者との関係の明確な区分・分離があり経営者保証を求めなかったケース

以下事例集の抜粋です。

 

Ⅰ.経営者保証に依存しない融資の一層の促進に関する事例

ガイドラインの要件が充足されていることを確認した上で、経営者保証を求めなかった事例

事例3.他の金融機関と協調して、経営者保証を求めなかった事例 (地域銀行)

1.主債務者及び保証人の状況、事案の背景等
・当社は、段ボール紙の製造業者である。営業地域内に競合先がないことから、安定的に受注を確保し業況は堅調に推移している。
・震災直後は売上低下により減収となったが、新たな事業展開として、段ボールによるインテリア製品の製造や簡易防音施設の開発を開始している。
・上記の新事業展開もあり、当社は企業立地補助金を活用した新工場の設備投資を計画しており、補助金以外の設備資金については、当行及び地元信金の 2 行が 4 億円の協調融資を行うこととなった。
・本件協調融資については、当初、経営者保証の提供を条件として検討を進めていたが、ガイドライン適用開始後の融資実行となることから、協調先の地元信金とも連携の上、保証人の条件について見直しを図ることとした。

2.経営者保証に依存しない融資の具体的内容
・当社は上場企業も含めた優良取引先を有しており、業況は安定している。また、新工場の稼動により生産能力の拡充が見込まれるため、当行としても設備資金の需要に積極的に対応する方針としている。
・当社については、以下のような点に鑑み、保証人は不要と判断した。
①当社は実質的にはオーナー企業であるが、その親族は取締役に就任しておらず、適切な牽制機能が発揮されていること
当社から経営者への貸付等もなく事業用資産は全て法人所有であるなど法人と経営者の関係の区分・分離が図られている
こと
③法人単体での返済力も十分であること
・また、協調先の地元信金との目線合わせも行い、当該金庫においても保証人を求めないで融資を行うこととなった。

上記事例は、法人と経営者との関係の明確な区分・分離があることが、経営者保証なしでの融資判断に影響を与えた事例です。

 

法人から経営者への貸付等もなく、事業用資産は全て法人所有であるということは、法人と経営者間に資金・資産面での依存関係がないということです。つまり経営者に求められるものは純粋な経営能力のみであり、業績への貢献度によって役員等経営者に昇進できる会社なのではないでしょうか。

 

能力によって役員になることができれば、従業員のモチベーション向上につながるでしょう。また、オーナー一族以外の者が役員になれば牽制機能が働き、経営の透明性にもつながります。

 

また、経営者保証がなくなることで、事業承継にも良い影響を与えます。なぜなら、会社の借入の保証人になることに抵抗があるため社長になりたくない、という人も少なくないからです。

オーナー一族以外の者であれば、よりその傾向は強まります。

後継者不足が叫ばれる昨今で、後継者として能力ある人材を広く求めるのならば、経営者保証の見直しは重要と考えます。

 

現時点では法人と経営者との関係の明確な区分・分離がないものの、今後の取組みを勘案し、経営者保証を求めなかったケース

 

Ⅲ.既存の保証契約の適切な見直しに関する事例

事業承継に伴い保証契約を見直した事例

事例44.事業承継に際し、法人・個人の一体性の解消に向けた取組みを踏まえ、新・旧経営者から経営者保証を求めなかった事例 (地域銀行)

1.主債務者及び保証人の状況、事案の背景等
・当社は工場の生産ラインに用いるステンレスタンク、薬品や接着剤等の定量排出装置などを製造している。取引先は業種を問わず900 社超にわたり、業種や販売先が分散されていることから景気動向に左右されにくく、業績は堅調に推移している。
・これまでの資金調達は、約定弁済付きの長期運転資金が中心であったが、2016 年に正常な運転資金に対応した短期継続融資を取組み、試算表等によるモニタリングを継続するなか、手形貸付の書替えに応じている。
・当社の直近決算書には、代表者(旧経営者)および事業承継予定の専務(新経営者、生え抜き)に対する当社株式取得資金が計上されており、法人と経営者との関係の明確な区分・分離がなされておらず、ガイドラインの要件を充足していない状況であった。
・今般、経営者の交替に伴い、旧経営者の保証解除および新経営者から保証を求めない対応の要請を受けた。

2.経営者保証に依存しない融資の具体的内容
・「経営者保証に関するガイドライン」について改めて説明し、当社から旧経営者に対する貸付金(株式取得資金)があり、更に直近期には新たに新経営者に対する貸付金も発生しており、法人と経営者との関係の明確な区分・分離がなされておらず、ガイドラインの要件を充足していない旨を説明するとともに、法人・個人の一体性の解消に向けた取組みについて確認した。
・確認の結果、旧経営者への貸付金は、今後、保有株式の譲渡金にて清算予定であること、新経営者への貸付金は、一括返済は困難であるが、毎年一定額を返済(約 10 年程度で完済)することで、法人・個人の一体性の解消を図っていく方針である旨の説明があった。
・要請に対して、以下の点を勘案し、旧経営者の保証を解除するとともに、新経営者からの保証を求めないこととした。
① 上記、法人・個人の一体性の解消に向けた取組みを踏まえ、今後、法人から経営者への貸付金の清算が見込まれること
② 事業基盤が磐石で業績も堅調であり、法人のみの資産・収益力で借入金の返済が十分可能と見込まれること
③ 適時適切に財務情報の開示を受けており、良好なリレーションシップが構築できていること

上記事例は、現時点では法人と経営者との関係の明確な区分・分離がなかったケースです。しかしながら、今後の取組みにより一体性の解消が見込まれると判断され、旧経営者の保証解除と新経営者の保証免除となった事例です。

 

経営者への貸付金が多額であり一括での返済は困難である等、一体性の解消がすぐにはできないケースです。だからといって、経営者保証の解除や免除ができないわけではありません。

 

現時点では法人と経営者との関係の明確な区分・分離がなかったとしても、将来どのように区分・分離を図っていくかの具体的な方法や時期が明確化されていたことが重要なポイントです。

 

以上、事例の紹介・解説でした。

 

本記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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